作家有吉佐和子さんをご存じでしょうか?私の中の有吉佐和子さんというと「複合汚染 上・下」で、高校の頃だったか夢中で読んだ覚えがあります。当時の世相を反映した作品をどんどん発表していたとの印象があるのですが、その有吉さんが書かれた昭和55年に文庫本化された「青い壺」が再び注目され、NHKの朝の情報番組でも取り上げられ書店では平積みで置かれ話題になっています。当時と世相も随分と変わってはいるのですが、現代にも十分通じる状況があると読者が興味を示し販売数が増えているとのことです。ということで、私もその宣伝にのったわけではないのですが、タイトルが美術品だけに読みたくなり、購入に至ったわけです。
「青い壺」は、現存する作家が制作した青磁の壺であり、その壺が数奇な運命をたどる13話の短編からなる小説です。タイトルが「青い壺」ですから、青い壺を主人公としてその筋を追っていくと、運命に翻弄されつつもしたたかに、その価値を転換しつつ存在し続けるその姿に巧妙で、むしろたくましさを感じてしまいます。作者の思いも及ばぬところで青い壺は多くの人々を翻弄し巻き込んで、最終的に作者を越えたはるかなる価値を得ることに。
「青い壺」は物語ではありますが、現実にあった出来事がありました。以前のブログで、歴代会長展を開催した際に作品が見つかったとの記事を掲載しましたが、そのうちの2点は、廃棄寸前のところで探している作者の作品であることが分かり会場に展示されたものでした。作者は亡くなられており、作品が生き残ったという事は、まだ生きたいという意志を作品がもっていたということなのだと思いました。
嘗て、お世話になっている美術運送会社のおばさん(この方にかけていただく温かい言葉にどれだけ励まされたことか)に「先生ね、作品はね、作家の手元を離れると独り歩きをし出すんですよ」と言われたことがありました。また、「作品は作者とは別のもう一つの人格をもつ」との話も聞いたことがあります。「青い壺」にしても、歴代会長作品にしても人が作り出すものには生命が宿るのかと…。
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